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夜――。星も月もない闇夜には、現実と夢の境界が曖昧になる。どこまでが現実で、どこからが夢なのか……。夢は、人の魂をさらけ出す。美しくて、愚かでこの上なく愛おしいその魂は、魔に魅入られる。それは、至上の甘味。
古来よりその魂を求めて、夜の闇に紛れ寝床を訪れる異形がいた。
それを、人間たちはインキュバスと呼ぶ。
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―――月のない夜。誰かの部屋。
ベッドの中で貴女は「誰か」と体を重ねていた。
???「……んっ……はぁ……すごい。吸い付いて、くる…… 入れただけなのに……こんな……っ……」???「この髪……やはり下ろしていた方がっいいですね。つややかで……綺麗で……いい香りだ……」???「……動いても、いいですか? ……もどかしくて、……我慢できません。……身悶えるあなたが、とても、可愛いから……」激しく内側をかき回されて、興奮に鳥肌が立つ。
???「もっと、足を……開いて……、……もっと、奥で…俺のを、感じて……」―――おかしくなりそう……!
絶頂の波が近づいてくるのを感じて、「彼」は一層腰で貴女を穿つ。
扇情的な言葉と甘いキス、ベッドのきしみとシーツのこすれる音に飲まれて、意識を手放しそうになったその時、乱れる呼吸と重なり、割り込むように「その音」が私を現実に引き戻した。
ピピピピ……
ピピピピ……
瞳を開けると、見慣れた天井がそこにあった。
枕元では無機質な電子音が鳴り響いている。
身体を起こしあたりを見回すと、そこは紛れもなく貴女の部屋で、
何の変哲もない、いつもと変わらぬ、平和な朝だった。
(……夢?)
ずいぶんはしたない夢をみてしまった、と少し落ち込む。
ぶしつけな携帯電話は鳴りやまない。
目を落とすと、それは「あの男」からの着信だった。
(……ああ……何の連絡だろう……)
気が重い。
出ようか出まいか迷ったものの、貴女は画面をタップし呼び出しに応じる。
その着信が、一つの恋の終わりを告げるものだと知らずに……。
~中略~
その晩は朔の夜だった。
むしゃくしゃした気持ちを抱えた貴女は、
行きつけのバーで一人、物思いにふけっていた。
???「……失礼ですが」ふと、声をかけられる。
???「そんなに飲んで、大丈夫ですか?」隣の席にいたのは、外国人の男性だった。
西洋人特有の顔立ちに、澄んだブルーの瞳が印象的なその人は、心配そうな表情を浮かべて貴女の様子をうかがっている。
新手のナンパかな。そう警戒しているのが相手に伝わったのだろうか。
そのヒトは言葉を選び、距離感に気を使いながら、話をつづけた。
???「……突然声をかけてすみません。さっきから、随分ハイペースなので、気になってしまって…」おひとりなら良ければご一緒してもよろしいですか、と言われたのでしぶしぶ頷く。
「ありがとう」―――不思議と耳に残る声だった。
彼のような知り合いはいないし、今日が初めましてのはずなのに、
なぜか、初対面とは思えない……。
これまで生きてきてこんな感覚に陥ったことは初めてだった。
外見とは裏腹にその男性は日本語はかなり堪能なようで、日本人を相手に話をしているのと変わらないテンポで会話が進む。
??? 「ん? 俺の顔に、何か?」貴女「あの、どこかでお会いしたことが……?」
???「あなたに会ったのは今日が初めてですよ。あなたのような方と出会っていたら、忘れるはずないので」貴女「いえ……あの、あなたのお名前は……?」
彼は美しい瞳を細めて、妖艶なまなざしで貴女を見つめる。
??? 「俺? 好きなように呼んでください」そんなことを言われたのは初めての体験で困惑していると、
???「……俺は自分の名があまり好きじゃないんです。だから適当に、呼びやすいように呼んでくれたらそれで」貴女「……」
???「……そういわれても困りますか。じゃあ……そうだな、アル、と」貴女「アル?」
???「あなたがさっき空にしたカクテルが、『アルディラ』だから」そんな理由で?と思わず吹き出す貴女に、
彼は、甘くとろけるような声で、こう返した。
アル「そんな理由でいいんですよ。……あなたの名前は?」----------------------------------------------
とあるバーで出会った不思議な彼・アル。
貴女とアルの甘くもキケンな一夜の逢瀬がどのような展開をするか、
どうぞ、引き続きお楽しみに……。
※ 製作上の都合により、収録音源とは異なる場合がございます。予めご了承ください。